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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)791号 判決

原告

飯田由美子

被告

神戸トヨペツト株式会社

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自金三五五万五九七九円及びこれに対する昭和六二年一一月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(一) 発生日時 昭和六二年一一月一三日午前一一時ころ

(二) 発生場所 兵庫県加古川市野口町北野四七五の一先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 被告大嶋隆文(以下「被告大嶋」という。)運転の普通乗用自動車

(四) 被害車 原告運転の原動機付自転車

(五) 事故態様 被害車が、国道二号線加古川バイパス北側の東行側道を進行して本件交差点に進入したところ、右バイパス下の隧道を抜けて本件交差点に進行してきた加害車と衝突した。

2  被告らの責任原因

(一) 被告大嶋は、対面の信号機が赤色表示であるにもかかわらず、本件交差点に進入した過失があるから、原告の人身損害につき民法七〇九条による賠償責任がある。

(二) 被告神戸トヨペツト株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車を自己のためその運行の用に供していたのであるから、原告の人身損害につき自賠法三条による賠償責任がある。

3  原告の受傷及び治療経過

(一) 傷病名 右下腿開放骨折

(二) 治療期間及び医院

(1) 崇高クリニツク 入院

昭和六二年一一月一三日から同年一二月一一日まで(二九日)

(2) 国立姫路病院 入院

昭和六二年一二月一二日から昭和六三年二月二八日まで(七九日)

(3) 右同病院 通院

昭和六三年二月二九日から同年五月二〇日まで(実日数一九日)

(4) 右同病院 通院

平成元年一月一三日

(5) 右同病院 入院

平成元年一月三〇日から同年二月八日まで(一〇日)

(6) 右同病院 通院

平成元年二月九日から同年三月二二日まで(実日数三日)

(三) 症状固定日 平成元年三月二二日

4  原告の損害

(一) 治療費 合計金五二万四七二〇円

(1) 崇高クリニツク分 金一五万二九一〇円

(2) 国立姫路病院分 金三七万一八一〇円

(二) 診断書料 金一万三五〇〇円

(三) 付添看護料 金一五万九五〇〇円

原告が崇高クリニツクに入院していた二九日間は、原告の母又は叔母の付添いを受けたが、その付添看護料は一日当たり金五五〇〇円が相当であるから、右付添看護料は合計金一五万九五〇〇円(五五〇〇円×二九日=一五万九五〇〇円)となる。

(四) 通院交通費 金三万一三二〇円

(1) 国立姫路病院への通院については、加古川・姫路間はJR、姫路・病院間はバスを利用したが、昭和六三年当時のJR片道料金は金三〇〇円、バス片道料金は金一三〇円であり、平成元年当時のJR片道料金は金三〇〇円、バス片道料金は金一六〇円であつた。したがつて、国立姫路病院への通院交通費は、次のとおりとなる。

イ 昭和六三年度分 金一万六三四〇円

(三〇〇円+一三〇円)×二×一九日=一万六三四〇円

ロ 平成元年度分 金三六八〇円

(三〇〇円+一六〇円)×二×四日=三六八〇円

(2) なお、原告は、再入院時、仮退院時にそれぞれタクシーを利用したが、右タクシー料金は金一万一三二〇円である。

(3) 以上合計金三万一三二〇円

(五) 入院雑費 金一五万三四〇〇円

(一三〇〇円×一一八日=一五万三四〇〇円)

(六) 休業損害 金九一万五七六九円

原告は、本件事故により、昭和六二年一一月一三日から昭和六三年三月二四日までの一三三日間、及び平成元年一月三〇日から同年二月八日までの一〇日間それぞれ休業を余儀無くされた。

原告は、昭和三七年八月一二日生まれで、本件事故当時二五歳、平成元年一月当時二六歳であるところ、二五歳の平均賃金は月額金一九万二一〇〇円、二六歳の平均賃金は月額金一九万二五〇〇円である。よつて、原告の本件事故による休業損害は、次のとおり金九一万五七六九円となる。

(1) 一九万二一〇〇円÷三〇×一三三日=八五万一五九九円

(2) 一九万二五〇〇円÷三〇×一〇日=六万四一七〇円

(3) (1)+(2)=九一万五七六九円

(七) 慰謝料 合計金二五〇万円

(1) 入通院分 金二〇〇万円

(2) 後遺障害分 金五〇万円

(八) 弁護士費用 金三〇万円

(九) 以上合計 金四五九万八二〇九円

5  損害のてん補

原告は、本件事故による損害について、自賠責保険から金一〇四万二二三〇円の支払いを受けたから、前記(九)の損害額からこれを控除すると、その残額は金三五五万五九七九円となる。

6  よつて、原告は、被告ら各自に対し、金三五五万五九七九円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六二年一一月一三日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)  同2(一)の事実は争う。加害車は、青色表示の対面信号に従つて本件交差点に進入したところ、赤色信号を無視して本件交差点に進入してきた被害車と衝突したもので、加害車を運転していた被告大嶋に運転操作上の過失はない。

(二)  同2(二)の事実のうち、被告会社が加害車を自己のためその運行の用に供していたことは認めるが、その余は争う。

3  同3、4の事実は争う。

4  同5の損害のてん補は認める。

三  被告会社の抗弁(自賠法三条但書の免責の抗弁)

1  加害車は、前述のとおり、青色信号表示に従い本件交差点に進入したところ、赤色信号表示を無視して本件交差点に進入してきた被害車と衝突したもので、被告両名は、自動車の運行に関し注意を怠らなかつたし、本件事故は、原告の全面的過失によつて生じたものである。

2  加害車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

3  なお、本件事案は、当事者双方の主張する信号関係のいずれが真実であるかという点のみが、責任の有無に関係しているのであるから、被告会社の被告大嶋に対する選任・監督上の注意義務を尽くしたか否かの点は、本件事故の発生とは無関係である。

四  抗弁に対する認否

被告会社の抗弁事実はすべて争う。原告に信号無視の事実はなく、請求原因2(一)に記載のとおり、加害車のほうが、赤色信号表示を無視して本件交差点に進入したものである。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は、当事者間に争いがなく、また、同2(責任原因)の事実のうち、被告会社が加害車を自己のためその運行の用に供していたことも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告大嶋は、加害車の運転操作上の無過失を、被告会社は、免責の抗弁をそれぞれ主張するので、これらの点について判断する。

1  右争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証の一、二、原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く。)、被告大嶋隆文本人尋問の結果、及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)  本件事故現場である本件交差点は、別紙交通事故現場見取図(以下「現場見取図」という。)記載のとおり、国道二号線加古川バイパス北側の東行き側道(以下「東行き側道」という。)と右加古川バイパス下の南北に通ずる隧道(以下「本件隧道」という。)とがほぼT字型に交差する交差点であり、本件隧道は、その南側において、加古川バイパス南側の西行き側道(以下「西行き側道」という。)とほぼT字型に交差している(以下「南側交差点」という。)。

(二)  本件交差点および南側交差点は、現場見取図に記載のとおり甲、乙、丙ほか二か所の位置に信号機が設置されていて、信号機により交通整理がなされているところ、本件事故発生当時における各信号機の表示の周期は、甲信号機が赤色表示から青色表示に変わると二〇秒間青色表示が続き、次いで四秒間黄色表示が続くが、その間、乙信号機は、甲信号機と同様に、二〇秒間青色表示が続き、次いで四秒間黄色表示が続くのに対し、丙信号機は、右二四秒間赤色表示が続いている。他方、丙信号機が赤色表示から青色表示に変わると二〇秒間青色表示が続き、次いで四秒間黄色表示が続くが、その間、甲・乙両信号機ともに右二四秒間赤色表示が続いている。なお、丙信号機が赤色表示から青色表示に変わる直前の二秒間、甲・乙両信号機は赤色を表示している。

(三)  被告大嶋は、本件事故当日、加害車を運転して西行き側道を走行し、南側交差点に差しかかつたところ、甲信号機が赤色を表示していたので、現場見取図記載の〈1〉の地点で停止し、甲信号機が青色表示に変わるや直ちに南側交差点を右折して、本件隧道に入つたところ、前方の乙信号機が青色を表示していたので、そのまま本件交差点を通過すべく、時速約二〇キロメートルの速度で本件隧道を北進した。そして、現場見取図記載の〈3〉の地点に到つたところ、左斜め前方約一〇・三メートルの同見取図記載ア点に原告運転の被害車が本件交差点に進入してくるのを認め、ハンドルを切つたが間に合わず、被害車と衝突した。

(四)  加害車が、前記〈1〉地点を発進して本件衝突地点に至るまでの走行距離は、約三八・二五メートルであり、これを時速二〇キロメートルで走行する場合に要する時間は、約六・八八秒であるところ、前記(二)に認定した信号機の表示の周期によると、甲信号機が青色を表示後二〇秒間は、乙信号機も青色を表示し、その間丙信号機は赤色を表示しているから、本件衝突時、被害車の対面信号機である丙信号機は、赤色を表示していたものといわざるを得ない。

(五)  原告は、本件事故当時、被害車を時速約二五キロメートルの速度で運転して本件交差点に進入し、加害車と衝突したものであるが、被告大嶋としては、前記〈3〉地点で前記ア点の被害車を発見後衝突まで約一秒間しかなく、本件事故を回避することは不可能であつた。

(六)  なお、被告大嶋は、本件事故直後に実施された実況見分に立会し、その際、警察官に対し、「前記〈1〉の地点で信号待ちをし、対面信号が青色表示になつたので発進して右折し、右折後現場見取図記載の〈2〉の地点で対面信号が青色表示になつているのを見た」旨指示説明をしているところ、右指示説明は、前記(二)に認定した信号機の表示の周期と符合する。

2  もつとも、原告は、原告は対面信号の青色表示に従つて本件交差点に進入したものであり、むしろ加害車の方が赤色表示の対面信号を無視して、本件交差点に進入した旨を主張し、原告本人尋問の結果中には右主張に添う供述部分があり、また、成立に争いのない乙第一号証の三によると、原告は、実況見分において、警察官に対し、「原告は、本件衝突地点の約三七・五メートル手前の地点及び約二四・五メートル手前の地点において、いずれも対面信号(丙信号機)が青色表示であるのを確認した」旨指示説明していることが認められる。

しかしながら、(1)前掲乙第一号証の三によると、原告の右指示説明は、本件事故発生後約六か月もたつた昭和六三年四月八日に実施された実況見分においてなされたものであり、また、証人小西洸の証言及びこれにより成立を認めうる乙第二号証によると、昭和六二年一二月五日ころには、本件事故に関し、保険のリサーチ会社が調査のため原告側に接触を求めにきていたことが認められるから、原告が、右実況見分において、本件事故態様に関する記憶のとおりに指示説明をしたものであるか疑問が残ること、(2)さらに、仮に、被害車の対面信号の状況が原告の前記指示説明のとおりとすると、原告が最初に丙信号機の青色表示を認めてから本件衝突に至るまでの走行距離は、約三七・五メートルであり、これを時速約二五キロメートルで走行する場合に要する時間は、約五・四秒であるところ、これに前記1、(二)、(四)に認定したところによれば、加害車が本件衝突より約六・八八秒前に前記〈1〉の地点を発進した時点における甲信号機は、常に赤色を表示し、また、本件衝突時における乙信号機も、常に赤色を表示することになり、結局、加害車は、二度にわたつて対面の赤色信号を無視する結果となるが、かかる無謀で危険極まりない運転態度は、通常考えられないこと、これらの点に前記1の冒頭に掲記の各証拠を総合すれば、原告の前記供述部分および前掲乙第一号証の三の記載内容は、信用できないのであつて、前記1に認定したとおり、原告は、対面の赤色信号を無視して本件交差点に進入したため、青色信号に従つて本件交差点に進入してきた加害車と衝突したものと認めるのが相当であり、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、本件事故当時、加害車を運転していた被告大嶋及び道被告に加害車を運転させていた被告会社には、本件事故発生に関し過失はなく、本件事故は原告の一方的過失によつて発生したものというべきところ、被告大嶋隆文本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によると、加害車には構造上の欠陥又は機能の障害はなかつたことが認められ、かつ、本件において被告会社の被告大嶋に対する選任及び監督上の義務が問題となる余地のないことは、前記認定に照らして明らかである。

したがつて、被告大嶋の運転操作上の無過失及び被告会社の免責の主張は、いずれも理由があるものといわなければならない。

三  以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく原告の本訴請求はいずれも理由がないのでこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

交通事故現場見取図

〈省略〉

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